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生成AIガイドライン策定の要点|EC事業者が抑えるべきリスクと対策
EC事業者が生成AIガイドラインを策定する際の要点を徹底解説。情報漏洩や著作権侵害などのリスクを回避しつつ、業務効率化を実現する社内ルールの作り方とは?国の指針活用法やEC特有の画像・文章生成時の注意点、運用体制の整備まで詳しく紹介します。
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EC事業において、業務効率化や顧客体験の向上を目指して生成AIを導入する企業が急増しています。
しかし、明確なルールがないまま現場で使用を開始すると、予期せぬ情報漏洩や著作権侵害といった重大なトラブルを招く恐れがあります。
本記事では、EC事業者が安全にAIを活用するために不可欠な「生成AIガイドライン」の策定方法や、国が定める指針、実務での運用ポイントについて、専門知識がない方にも分かりやすく解説します。
目次
企業における生成AIガイドライン策定の重要性
企業が生成AIを活用する際、ガイドラインの策定は単なる形式的な手続きではありません。
それは、従業員をリスクから守り、同時に迷いなくツールを活用させるための基盤となります。
ここでは、なぜガイドラインが必要なのか、その根本的な理由を解説します。
情報漏洩と権利侵害を防ぐための防波堤

生成AIは利便性が高い反面、入力した情報がAIモデルの学習に利用され、意図せず社外へ流出してしまうリスクを孕んでいます。また、生成された成果物が既存の著作物に酷似していた場合、著作権侵害として訴訟問題に発展する可能性も否定できません。
ガイドラインは、こうした法的・セキュリティ的な危険から会社を守るための防波堤としての役割を果たします。
特にEC事業者にとって、顧客情報や未公開の商品データは生命線です。これらが流出した場合の信用失墜は計り知れません。したがって、何をAIに入力してはいけないのか、生成物をどう扱うべきかを明確に定める必要があります。
次の表は、生成AI利用における主なリスクをまとめたものです。
| 機密情報の漏洩 | ・顧客の個人情報(氏名、住所、購買履歴など) ・未発表の新商品情報やセール企画 ・社内の独自のノウハウや財務情報 |
| 権利侵害のリスク | ・他社の著作権や商標権を侵害する画像の生成 ・特定の人物に似せた肖像権の侵害 |
| 誤情報の拡散 | ・事実と異なる商品スペックの生成(ハルシネーション) ・差別的または不適切な表現の出力 |
業務効率化を阻害しないルールのバランス
リスクを恐れるあまり「全面禁止」という措置をとれば、業務効率化のチャンスを逃すことになります。一方で、制限なしに利用させれば前述のような事故が起きるでしょう。
重要なのは、守るべきラインを明確にしつつ、安全な範囲内での積極的な利用を促す「バランスの取れたルール作り」です。どのような用途であれば許可するのか、具体的な基準を設けることで、現場は安心してAIを活用できるようになります。
【規制と活用のバランスを取るための考え方】
| 分類 | 定義 | 具体例 | 対応方針 |
| レベル1:禁止 | 重大なリスクがある利用 | 顧客個人情報の入力、未公開情報の入力 | 厳格に禁止し、技術的なブロックも検討する |
| レベル2:条件付許可 | 注意が必要な利用 | 社内会議の要約、一般的な市場調査 | 上長の承認や、特定の安全な環境下でのみ許可する |
| レベル3:推奨 | リスクが低く効果が高い利用 | メール文面の草案作成、アイデア出し | ガイドラインに沿って自由な利用を推奨する |
国や公的機関の資料から読み解く基本指針
ゼロからガイドラインを作成するのは困難ですが、日本では総務省や経済産業省などが企業向けの指針を公開しています。
これらは法的な観点やセキュリティの標準を理解する上で非常に有用な資料です。
ここでは、参照すべき主要な公的資料とその活用ポイントを紹介します。
デジタル庁や総務省等のガイドライン活用法
日本政府は、AIの安全な利用を促進するために「AI事業者ガイドライン」などの資料を策定しています。これらには、AIを利用する企業が守るべき責務や、社会的な期待が明記されています。
EC事業者が自社のルールを作る際は、これらの公的ガイドラインをベースにすることで、法的な整合性が取れた信頼性の高い内容に仕上げることが可能です。
総務省と経済産業省が連携して作成した資料などを参考に自社のビジネスモデルに照らし合わせ、必要な項目をピックアップして自社ルールに落とし込むと良いでしょう。
参照すべき主な公的ガイドラインには次のようなものがあります。
- AI事業者ガイドライン(総務省・経済産業省)
AIを利用するすべての事業者が意識すべき基本原則が網羅されています。 - 生成AIの利用ガイドライン(日本ディープラーニング協会 – JDLA)
法的な論点や倫理的な課題について、実務的な観点から解説されています。 - 著作権法におけるAIの取り扱い(文化庁)
AI学習と生成物の利用における著作権の考え方が整理されています。
IPA資料に見るセキュリティと著作権の考え方
独立行政法人情報処理推進機構(IPA)は、情報セキュリティの観点からAI利用に関する注意喚起を行っています。IPAの資料は、技術的なセキュリティ対策だけでなく、組織としてどうマネジメントすべきかという点において具体的な指針を示しています。
特にECサイト運営では、システムへの不正アクセスやデータの取り扱いが厳しく問われます。IPAが示すセキュリティ基準を参考に、AIサービスの選定基準やアカウント管理のルールを設けることが重要です。
【IPA資料に基づくセキュリティ・権利対策のポイント】
| 項目 | 対策のポイント |
| サービス選定 | 入力データが学習に利用されない(オプトアウト可能な)サービスを選ぶ |
| アカウント管理 | 多要素認証を設定し、共用アカウントの使用を避けるなど、なりすましを防ぐ |
| データ入力 | 「機密情報は入力しない」というルールだけでなく、データ加工(マスキング)の手順を定める |
| 生成物の利用 | 生成物が既存の著作物に類似していないか、類似性・依拠性の観点からチェックする |
実務で使える社内ルールの構築ステップ
ガイドラインは従業員が実際に理解し、行動に移せなければ意味がありません。
抽象的な理念だけでなく、日々の業務で迷ったときに参照できる具体的な行動規範が必要です。
ここでは、実務に即した社内ルールを構築するためのステップを解説します。
利用範囲の定義と入力データの禁止事項
まず最初に行うべきは、「どのAIツールを」「どのような業務で」使ってよいかを定義することです。
無料で使えるツールの中には、入力したデータが学習に再利用される規約になっているものも多く存在します。そのため、会社として契約した安全な有料版のみを許可するなど、ツールの指定を行うことが第一歩です。
次に、入力データの禁止事項を具体的にリスト化します。「機密情報はダメ」という曖昧な表現ではなく、「顧客のメールアドレス」「仕入れ原価表」「パスワード」など、具体的な項目を挙げることで、従業員の判断ミスを防ぐことができます。
【入力データの分類とルール例】
| 入力禁止データ(赤信号) | お客様の氏名、住所、電話番号、クレカ情報 従業員のマイナンバーや人事評価情報 取引先との秘密保持契約(NDA)がある情報 |
| 入力注意データ(黄信号) | 社内会議の議事録(固有名詞を伏せれば可) 自社の公開前のプレスリリース案(専用環境なら可) |
| 入力可能データ(青信号) | すでにWebサイトで公開されている情報 一般的なビジネスメールの定型文作成 |
生成物のファクトチェックと責任の所在

生成AIは、もっともらしい嘘(ハルシネーション)を出力することがあります。
ECサイトにおいて、商品のスペックや成分表示、価格などに誤りがあれば、景品表示法違反や消費者トラブルに直結します。そのため、「AIが生成した内容は必ず人間が確認する」というプロセスをルール化することが不可欠です。
また、最終的な責任の所在を明確にしておくことも重要です。「AIが勝手にやった」という言い訳は通用しません。生成物を利用して公開した時点で、その責任は企業(および担当者)にあることをガイドラインに明記し、承認フローを整備しましょう。
▼ファクトチェックの確認リスト
- 生成された数値やデータに根拠があるか、公式サイトや一次情報で裏付けをとったか。
- 実在しない商品機能やサービス内容が含まれていないか。
- 文章のトーン&マナーが自社のブランドイメージに合致しているか。
- 他者の商標や登録名称が不適切に使用されていないか。
- 差別的な表現や、不快感を与える表現が含まれていないか。
外部サービス利用時の約款確認について
新しいAIツールを導入する際は、必ず利用規約(利用約款)を確認するプロセスを設けます。
特に確認すべきは、「入力データの扱い(学習に使われるか)」と「生成物の権利帰属(誰のものになるか)」の2点です。
海外製のツールでは規約が頻繁に変更されることもあります。法務担当者やIT管理者が定期的に規約を確認し、問題がある変更がなされた場合は利用を停止するなどの判断ができる体制を整えておくことが望ましいでしょう。
ECサイト運営におけるAI活用の注意点

ECサイト運営は、商品の魅力的な紹介や顧客対応など、AIが活躍できる場面が多い業種です。
しかし、不特定多数の消費者を相手にするため、法律や信頼性に関するリスクも高くなります。
ここではEC特有の注意点に絞って解説します。
商品説明文や画像生成時の法的リスク管理
商品の魅力を伝えるためのキャッチコピーや画像をAIで生成する場合、景品表示法(優良誤認・有利誤認)に注意が必要です。
AI生成に任せていると、が「最高品質」「業界No.1」といった根拠のない強調表現を勝手に生成してしまうことがあり、これをそのまま掲載すると、法的な処分の対象となり得ます。
また、商品画像の一部をAIで補正・生成する場合も、実物と乖離しすぎないように注意しなければなりません。
【商品説明・画像におけるリスク対策表】
| 活用シーン | 起こりうるリスク | 具体的な対策 |
| 商品説明文 | 根拠のない「No.1」表記や、実際にはない機能の記載 | エビデンスのない最上級表現は削除する。スペック数値は必ず仕様書と照合する。 |
| 商品画像 | 実物と異なる色味や形状の生成、他社画像の著作権侵害 | 「イメージです」等の注釈を入れる。他社製品に酷似していないか画像検索で確認する。 |
| レビュー要約 | ネガティブな意見の不自然な削除、捏造 | 要約内容が偏っていないか原文と比較する。AIによる創作レビューは掲載しない。 |
顧客データ取り扱いとプライバシー保護
ECサイトでは、チャットボットによる顧客対応や、購買データ分析にAIを活用するケースが増えています。
ここで最も重要なのは、個人情報の保護です。例えば、ChatGPTなどの対話型AIに「Aさんの購入履歴を分析して」といった形で個人名を含むデータを入力することは、多くのケースでガイドライン違反となります。
顧客データを分析に使用したい場合は、個人を特定できない形に加工(匿名加工情報化)するか、自社専用のセキュアな環境(ローカル環境やAPI経由での利用など)でAIを動かす必要があります。
| やるべきこと | ・データ入力前に、氏名や電話番号を「顧客A」「000-0000」などに置き換える。 ・API利用など、学習データとして利用されない設定(オプトアウト)を確認する。 |
| やってはいけないこと | ・顧客からの問い合わせメールを、そのままAIにコピペして返信案を作らせる。 ・個人の特定につながるIDや行動履歴を生データのまま外部AIに入力する。 |
形だけで終わらない!ルールの運用体制と整備
技術の進化スピードが速いAI分野では、ガイドラインを一度作って終わりにしてしまうと、ルールがすぐに陳腐化してしまう恐れがあります。
また、ルールがあっても従業員に浸透していなければ意味がないため、継続的に運用・改善していくための体制づくりについて解説します。
法改正に対応した定期的な見直し
AIに関する法整備は、日本国内だけでなく世界中で議論が進み、著作権法の解釈が変わったり、新しい規制(例えば欧州のAI規制法など)が施行されたりする可能性があります。
そのため、少なくとも半年から1年に一度はガイドラインの見直しを行うサイクルを設けるべきです。
また、AIツールの機能自体も日々アップデートさ、以前はできなかったセキュリティ設定が可能になったり、逆に新たなリスクが出現したりすることもあります。
IT部門や法務部門が中心となり、最新情報をキャッチアップしてガイドラインに反映させる仕組みが必要です。
【ガイドライン見直しのサイクル例】
| 1 | 情報収集 | 法改正、新技術、他社のトラブル事例などを収集(常時) |
| 2 | 定期評価 | 現行のガイドラインが実務に合っているか、現場へヒアリング(半年に1回) |
| 3 | 改定案作成 | 必要な変更点を洗い出し、改定案を作成 |
| 4 | 承認・周知 | 経営層の承認を得て、全社員に変更点を分かりやすく通知 |
従業員へのリテラシー教育と周知徹底
どれほど立派なガイドラインを作っても、従業員がそれを知らなければ効果はありません。入社時の研修はもちろん、定期的なeラーニングや勉強会を通じて、AIリテラシーを向上させる教育が必要です。
単に「禁止事項」を伝えるだけでなく、「なぜそれが危険なのか」という背景や、「こう使えば便利で安全」という活用事例をセットで教育することが効果的です。従業員が自分事として捉えられるよう、実際のEC運営業務に即したケーススタディを用いると良いでしょう。
【効果的な社内教育カリキュラムの例】
| 基礎編 | 生成AIの仕組み、得意なこと・苦手なこと、基本的なリスク(情報の入力、ハルシネーション)。 |
| 実践編 | 自社ガイドラインの解説、商品説明文作成のハンズオン、著作権チェックの方法。 |
| 事例共有 | 社内でうまくいったAI活用事例の発表、ヒヤリハット事例の共有。 |
まとめ:安全なEC運営とAI活用のために
生成AIはEC事業を飛躍させる強力なツールのため、うまく使えばサイト運営の効率化を加速させることができます。
その一方で、使い方を少し間違えると大きなリスクがあるため、AI活用については適切な「守り」が欠かせません。
そのため、自社の状況に合わせたガイドラインを策定し、従業員への教育を徹底することで、リスクを最小限に抑えながら最大限の成果を得ることができるよう設計を行いましょう。